アルベリーアジア代表(CEO)の増井哲朗です。
それでは、第4回の話を始めたいと思います。
10年ほど前の話になりますが、当時、義兄が親しくさせて頂いた関係で邱永漢さんとプライベイトな食事を何回かご一緒させていただきました。
いうまでもなく、邱永漢さんは作家であり、経済評論家であり、ご自身も投資家として大成功を収めた方です。
一般的には著書の「金銭読本」などに代表されるように「お金に関する知識」の啓蒙家・専門家というイメージでしょうか。
また、大変な食通であり、邱永漢さんの紹介でブレイクしたお店も多いと聞きました。
たいへん残念なことに、今年の5月、88歳で、お亡くなりになりました。
さて、食事中、タイビジネスに関連して、邱永漢さんから「日本人がアジアで儲けることはそれほど難しいことではありません。それはいつか来た道だからです」というお話がありました。
以前、頂いた著書にも達筆でご署名とともに「いつか来た道」と書かれていたのを思い出しました。
その後に続く説明を要約しますと、多少の違いはあったとしても、アジアの発展の仕方は、日本の発展してきた道筋と同じ道を歩んでいくことになる。したがって、今のタイは、日本のいつの時代と同じだろうかと考えると比較的簡単にビジネスのヒントが得られるということでした。
そして、同時代の古い日本の新聞を読むことを勧められました。
記事だけでなく、そこに掲載されている広告、どんな商品が売れていたかなどを参考にすると良いとアドバイスされました。
邱先生は我々のレベルに合わせて話をしてくれたのでしょうが、「いつか来た道」という言葉とともに、腑に落ちるお話でした。
それでは、現在のタイは何年頃の日本なのかということですが、本年10月27日付けの日本経済新聞の記事によれば、タイの一人当たりのGDPは2010年統計時、4,992ドルで、これは安定期成長期に入った1976年の日本のGDPレベルと同じということです。さて、1976年の日本って、何があったのかなと考えますが、もちろん思い出せません。
また、これを読んでくれている人の多くが「生まれてない!!」と言うかも知れません。
ただ、手間を惜しまずに、こうしたことを調べてみないと、なかなかお金持ちの仲間には入れないのかも知れません。
バンコクに生活する身にとっては、現在のタイの経済レベルが36年前の日本と同じだと言われても、どうだろうか、もう少し生活レベルは高いようにも思えるし、判断が難しいというのが正直なところです。 私はこうしたことを考えて行く時に、「いつか来た道」と合わせて、「ワープ現象」を見抜く眼を持つことが必要だと思います。
ご存じの通り、1976年の日本に、今、タイ人の皆さんが当たり前に使っている携帯電話は存在していません。
人と人とのコミュニケーションツールにワープ(中抜き)現象が起きているのです。
発展期を迎えたアジアが、大きな道筋で過去の日本モデルを踏襲しながら成長を遂げているのは間違いない事実です。
一方、具体的に生活周辺を見ていくと“中抜き”されてしまった製品やサービスがたくさんあります。
先ほどの電話などは、その典型でしょう。
日本の1960年頃、地方では電話機の脇についたハンドルを回して、電話局を呼び出して、相手先番号を言って、交換手につないでもらっていました。
それから、技術革新と巨大な設備投資により、全自動の電話網ができあがりました。
しかし、今の日本では、固定電話を家にも持たないという人も多いし、公衆電話という言葉さえ死語になりつつあります。アジアの国々では、このような時代をワープ(中抜き)することを軽々と実現しています。いきなり、携帯電話の時代という感じがいたします。
タイでの投資を検討するときに、日本の「いつか来た道」を思い浮かべながら、片方では、この商品、このサービスの「ワープ現象」はどうなのかという複眼の視点を持つことが重要だと思います。
少なくとも、大きな失敗を防ぐという観点からは、この複眼思考が必須だと考えます。
それでは、この辺りで第4回の話を終わりにいたします。