アルベリーアジア代表(CEO)の増井哲朗です。
仕事(業務)の範囲は日本では広い範囲の区分では「職掌」、狭い区分では「職務記述書」という言葉で語られます。英語圏では「Job Description」が一般的でしょうか。
実はこの、仕事の範囲を決めることに、日本人は自分では気づかずに無頓着です。
日本における総合職という概念
それは、日本の雇用慣行に主因があります。日本では、ある職務の人材を採用するというより、まずは「総合職」として一括採用してから配属や職務内容を決めるという採用方法が一般的だからです。
それに加えて、日本では、従業員の多くはマルチタスク化に向けて教育を受けて、事務スタッフであれば、庶務の仕事をしていた人がいつの間にか、会計ソフトを自由に操っている、現場のオペレーターであれば、複数の工作機械を操作でき、多くの作業工程に対応が可能です。また、自分の時間に余裕があるときに、多忙な部門の仕事を助けるなどということも、当たり前に行われているのではないでしょうか。
こうした、日本での経験をベースに、“仕事の範囲”を考えて、タイ人の採用にあたると間違いなく失敗します。日本の雇用環境こそ特殊なのだと肝に命じるべきです。
職務内容を事前にはっきりとしておく
例えば、事務スタッフの採用に当たって、「基本は会計業務補助ですが、時間があったら営業の仕事も手伝ってあげてください」というような曖昧な打ち合わせのまま採用すると、後々、問題が起きます。当事者間の“どこまで”の境界が曖昧だからです。
タイ人と言うより、日本人以外のと言った方が良いかも知れませんが、採用に当たっては、「これが、あなたの仕事です」を明確過ぎるほど明確にして、お互いに理解納得してから雇用契約を結ぶことが大切です。
そうかと言って、一足飛びに欧米流の「Job Description : 職務記述書」を目指す必要はありません。まずは、雇用契約書に職務の内容を、“もう少し”明確に記述するということから始めたらどうでしょうか。
タイ人スタッフは指示されたことは、確実にやってくれます。以前の文章でも書いたのですが、日本人幹部は「明確な指示」を出すのが苦手で、下手です。
雇用契約書は言い換えれば、最初に当該スタッフに出す業務指示書とも言えます。
「あなたの仕事はこれです」は明快なほど良いです。
私の経験では、マネージングダイレクターの運転手として雇用されたと考えている運転手に対して、手が空いているようなので、製品の配送を依頼したら、次の日から出社しなかったという例もあります。日本人的には「同じ運転業務なのに・・・なぜ」という思いがあるのですが、もし、当該業務を望むなら、最初から雇用契約書にその業務が“あなたの仕事です”を記載しておくべきです。
今日は採用に当たって、雇用契約書に“仕事の範囲”について、明確に記載しておくべき重要性を、日頃接するご相談事案から感じていることを書いてみました。
それではまた。